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クチュン、と天使みたいな小さなくしゃみ
クチュン、と天使がするような小さなくしゃみに、春一はふと目を覚ます。
まだ目を開ける前だが、誰のくしゃみなのか、春一は見なくてもわかる。
「春さん良かった。目が覚めたんですね」
鈴音だ。
あれから春一は病院に運ばれ緊急手術を受けた。
鈴音はその後、時間が許す限り、ずっとベッドの脇に付き添ってくれている。
「鈴音。俺は昨日だって一昨日だって、ちゃんと目を覚ましてるよ」
鈴音は、春一に必要以上の心配をする。
それは春一がどう慰めても止められない。
でもこれほど鈴音が心配するのも、春一がうっかり怪我なんかしたせいだ。
しかし手術にはなったが、救急車の中で意識も取り戻したし、怪我自体もナイフを無理に引き抜いたせいでちょっと出血が多かっただけだ。
全然たいしたことはない。
内臓の損傷もないし、後遺症もない。
命に別状があったわけでもないのに、鈴音はずっと不安そうな顔をしている。
「だって春さん、もしかしたら二度と起きてくれないんじゃないかって……」
そんな心配をさせてしまったのも春一なわけだが、
「だから鈴音、頼むから想像で泣かないでくれ」
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