うらぶれた気配ただよう午前中の飲み屋街

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うらぶれた気配ただよう午前中の飲み屋街

うらぶれた気配ただよう午前中の飲み屋街を春一は歩いている。 ついさっきまで酒を酌み交わしていたが、頭ははっきりしている。 後をついてくる気配がうざったい。 春一はふと目についた路地裏を曲がってみた。 角を曲がったとたん、いきなり後頭部にガツンと衝撃がくる。 「――ウッ」 予告もなしに殴ってくるとは思わなかったから、まともに食らって春一は、ドウと地面に倒れる。 「……痛ぅ」 殴られた頭を抱え、痛みにうめく春一に、相手はゆっくりと近付いてきた。 瞬間、春一の足が跳ね上がり、相手の脛を蹴り飛ばす。 すばやく立ち上がると、懲りずに反撃してくる腕をかいくぐって距離を詰める。 追撃の肘を捕まえ、体ごとぶん回して頭から壁に激突。 「ヴゥゥゥ!」 悲鳴とも唸りともいえぬ声をあげる相手を、春一は肩関節をがっちりと極めながら壁に押し付ける。 「俺はチンピラを相手にする気はないんだが」 ついでに関節とは反対側に腕を捻りあげてやれば、 「ウアアアアア――」 今度ははっきりとした声で苦痛の悲鳴をあげた。 春一は相手の耳元に顔を近づけると、 「それともあんたがアポイトメントを取ってくれるのか、あぁ?」 バタバタと足音がして、もうひとりの仲間が路地裏に駆け込んでくる。 手にはコーヒーをふたつ持っていた。 「チッ」 春一は舌打ちする。 「あんたら、仲がいいんだな」 ひとりがコーヒーショップに入るのを見届けてから、こいつを路地に誘い込んだ。 だが思ったより仲間が駆けつけてくるのが早い。 コーヒーショップの店員の勤勉さに敬意を表しながら、春一は男の体を開放する。 両腕を空けなければまずい。 相手は、プロだ。
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