プロローグ

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人間は誰しも心に天秤ばかりを持っている。 支点から左右の等しい位置に良心と悪心があり、シーソーが揺れ動くが如く常にどちらかに傾こうとするが、人間には理性が備わっている故、たいていの者は悪心に傾こうとすると理性がそれを食い止める。 こんなふうにバランスを取りながらも、ほとんどの人間が良心に重きを置き、平和な人生を淡々と歩み終える。 だが、時たま理性でも制御できず、悪心に傾いたまま鬼人(きじん)と呼ばれる輩に成り果てる者がいる。 鬼人は悪意ある鬼の甘味な囁きに(いざな)われ、快楽という名の地獄に溺れ、己が引き寄せた破滅という末路を辿る。 但し、己一人が破滅するには自業自得で済むが、そうはさせじとするのが鬼なるもの。 鬼人に『他人を巻き込み傷付けることが快楽だ』と教え、さらなる不幸を招くたびに『これこそが至上の悦びだ』と言い聞かせる。 そんな鬼人を諭して心に棲む鬼を祓い、天秤ばかりを再び水平に保てるよう微調整するのが“鬼祓い”と呼ばれる者たちの仕事だ。 彼らは、陰陽師の血を継ぐ最後の末裔(まつえい)とも、鬼たちから恐れられる唯一無二の存在とも言い伝えられている。 そして、ここにそんなおどろおどろしい話とは無縁そうな少女が一人。 ――だが、彼女はまだ知らないだけだった。彼らが現れた本当の訳を……。 少女が住むボロ下宿屋こそが鬼祓いの目的の場所だということを……。
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