06.そして、誰もいなくなった

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「あっ、来た来た!」 その時、声を張り上げてこちらに手を振る透子ママと――。 「お待たせ」 太陽は元より黒先や朝霧一家まで講堂前にいた。 「メイちゃん、遅い!」 中でも、来年この高校を受験するフウコの気合いは鬼気迫るものがあった。 「早く回らなきゃ時間がなくなっちゃうじゃない!」 「(せわ)しない! 学校がなくなるわけじゃあるまいし」 ツユ子の言葉にフウコはぶーっ頬を膨らませる。 「何をやっていたんだ?」 太陽も機嫌が悪そうだ。 「だから、俺と一緒に出れば良かったのに」 ブチブチと口の中で呟きながら、さり気なくメイの隣に立つ。 「望月君は渚と一緒?」 朔の姿が見えないのでメイが訊くと、「そう」と答え、「で?」と訊ね返す。 「何をやっていたのかという質問なら」とメイの視線が灯里たちに向けられる。 「下宿人さんを連れてくるのに手間取っちゃったの」 「だって」と言いながらメイはどんなに大変だったか太陽に言って聞かせる。 「化粧とトイレと服ねぇ」 太陽がフッと笑みを零す。 「しかし、緩衝材とは上手く言ったものだ。見た目はそうでもないが、確かにお前はクッションみたいだ」 「ちょっ、ちょっとその目! セクハラ!」 カーディガンの前をキュッと合わせると、メイはキッと太陽を睨んだ。
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