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「夢の新居だ……」
二階建ての中古家を見上げながら、ひとりの青年はポツリと言った。
彼の名前は橋本圭太。大学を卒業し、隣県の会社に勤めることになった。彼は会社から徒歩10分ほどに位置する中古家を購入した。
最初は賃貸を探していたが、色々見ているうちに毎月払うのが馬鹿らしいと思った圭太は中古家に目をつけた。
この二階建ての家は殺人事件が起きたという訳あり物件のため、ずば抜けて安い。
幽霊などを信じない圭太は親の反対を押し切ってタダのような値段で購入したのだ。
家の中に入ると少ない荷物が運び込まれている。圭太はそれらを整理整頓すると、自室と決めた部屋にカレンダーをかけた。
カレンダーは今月4月のページになっており、一週間後の水曜日は赤い丸で囲ってある。初出勤の日だ。
「もう少しで社会人かぁ……」
圭太はそっと赤い丸に触れて呟くと、部屋を出た。
財布と家の鍵を見つけると買い物をしに行く。
今日の夕飯や冷蔵庫に詰める食材などを買いながら街のどこに何があるのか見て回った。
圭太は初出勤の日まで買い物をしながら土地勘を少しずつ身につけた。
1週間はあっという間に過ぎ、いよいよ初出勤。
圭太は慣れないスーツを着て鏡の前で身なりを整えると家を出た。
職場を目指して歩く事約5分、紺色のブレザーを着た少女が電柱に寄りかかっているのが見えた。少し大人びた顔立ちからして高校生だろう。
(急がなくていいのか?)
圭太は自分が高校生だった時の時間割を思い出し、首を傾げた。
彼女の学校がどこにあるかは知らないが、急いだ方がいい時間だ。他の学生達も早足で歩いている。
(まぁ俺には関係ないけどさ)
なんとなく気になりはしたものの、圭太は先を急いだ。
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