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「はい。……とても仕事熱心な方ですね」
圭太が言葉を選びながら言うと、佐伯は笑った。
「はははっ、今時の若者にしちゃ言葉選びがうまいな。非社交的で無愛想な奴だったろ?アイツは原田っていってな、昔はもっと明るいヤツだったんだよ。あ、ちなみに俺より年下な」
「え!?」
圭太からすれば衝撃的な事実だ。どう見ても佐伯の方が若々しい。
「数年前に高校生の娘さん亡くしてさ、それからはあぁなんだよ。確か……冬花ちゃんっていったな。何度か弁当を届けに来たんだがいい子だったよ……」
佐伯は哀愁を帯びた目で言う。
「なんで亡くなったんですか?」
「事故だよ。雪が降った翌日、登校してたらスリップした車とぶつかったらしい……。それから原田は塞ぎ込むようになっちってな……」
「そうだったんですね……」
原田が無愛想な理由を知り、圭太は胸が痛んだ。
休憩終了の合図が鳴る。
「よし、戻るか」
「はい」
ふたりはオフィスに戻って仕事を再開させた。
それから圭太は佐伯に教わりながら仕事を順調に覚え、それなりに充実した日々を過ごす。
時折初出勤の日に見た女子高生が同じ場所に突っ立っているのが気がかりなくらいで。
とある水曜日、この日は朝から雨が降っていた。圭太は傘をさして出勤する。
「ん?」
いつもの電柱に彼女は傘もささずに寄りかかっていた。
少し離れたところで立ち止まって少し彼女を観察してみる。
少しウェーブのかかった髪、少したれ目気味なせいか穏やかで可愛らしい顔立ちだ。
背はそんなに高くない。
彼女は手に何かを持っていて、その何かと真正面を交互に見ていた。
「なにがあるんだ?」
圭太は彼女の目線をたどった。
横断歩道の向こう側で郵便ポストが背を向けている。
圭太は彼女の前を通るついでに手元を見た。女子高生が持っていたのは淡いピンク色の封筒だった。
(手紙出したいなら横断歩道渡ればいいのに……)
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