新居と横断歩道

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「良ければ出してあげようか?」 「いいんですか!?」 彼女は目を輝かせながら言う。 「うん、いいよ」 「お願いします!」 圭太は彼女から手紙を受け取ると、横断歩道を渡って郵便ポストに手紙を入れた。 戻ろうとして横断歩道の前に立ち、圭太は目を丸くした。 電柱に彼女の姿は無く、代わりに花が供えられていた。 「どういう事だ?」 圭太は首を傾げながらも出勤した。 会社に着くと、何故か原田に目が行った。 「どうした?」 佐伯は怪訝そうに圭太を見る。 「いえ、なんでもないです」 圭太は慌てて仕事を始めた。 10時休憩、圭太は佐伯と一緒に缶コーヒーを飲みながら煙草を吸っていた。 「原田が気になるのか?」 佐伯は珍しく真剣な顔をして聞いた。 「気になるといいますか……なんというか……」 どう言葉にしていいのか圭太には分からなかった。 「同情ならやめとけよ?同情が1番人を傷つけるんだ」 「……はい」 原田を同情していた訳では無いが、佐伯の言葉の重みに負け、圭太は返事をした。 数日後、圭太が自宅の郵便受けから新聞を取り出すと何かが落ちた。 「あ……」 それは淡いピンク色の封筒だった。 圭太は恐る恐る宛先の名前を見た。 宛先は水野樹という知らない名前になっていた。圭太の前に住んでいた者の名前だろう。 次に送り主の名前を確認する。 「嘘だろ…… ?」 圭太は思わず声に出した。送り主は原田冬花となっていた。
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