あまりものララバイ

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あまりものララバイ

 教室と言う密室。ドアは前と後ろに二つあり、鍵も掛かっていないのに、出ていくことのできない一つの空間。  僕は机に懐くようにして休憩時間を過ごす。そうすれば見たくないものを見なくて済むから、なんて、幼稚な考えだけれども、誰にも何も言われないことをいいことに無意味に一日を過ごす。  僕は決して社交的でもなければみんなが振り向くくらいカッコいいわけでも可愛いわけでもない。その辺に埋もれてしまうような平凡な容姿。なんて面白味のない人間だ、残念なことに。  その僕に特筆するものがあるとすれば、いや、あったとすれば、誰もが振り向くような美形の彼氏がいたことだろう。いわゆるチャラ男丸出しの容姿に高い身長、物腰も柔らかく、誰にでも優しい。そう、誰にでもだ。  優しくしてくれた彼のことを、僕はすぐに好きになった。好きになって、付き合うことになって、僕は有頂天になっていた。どんどんと彼が遠くへ行ってしまうような感覚は早い時期から感じていたけれど、気づかないふりをしていた。  彼が本当に好きだったのは、僕の隣にいた僕の友達だということに気付いたのはいつのことだろう。それでも僕は見ないふりをして、彼と一緒に居続けた。僕の視線と、彼の視線が交わらなくなって随分と時間が経っていたというのに。     
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