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第1章 発端
(注:文中では、本編と同じく蘭丸は全て乱法師と記載、信長からの書状には乱法師と記述されている。本人の署名は森乱成利)
「真に畏れ多き事なれど、頭痛がして起き上がる事すら……」
脇息に凭れ掛かり弱々しく返答した者は、顔立ちに幼さが残る十代前半と覚しき少年だった。
「上様はそなたの事を、それは案じておられる」
まだ若い、二十代前半と覚しき武士は諭すように切り出した。
「斯様な有り様では出仕したとてお役には立てませぬと、お伝え下さいませ」
「なれど──」
若き武士、織田信長近習の青山虎松忠元は、続く言葉を辛うじて呑み込んだ。
その言葉とは『嘘を吐くな。邸にいなかったであろう』である。
青山は昨日も今いる邸を訪れていた。
その時、少年の家臣達が話しているのを耳にしてしまったのだ。
「若様が何処かへ行ってしまわれた」と。
何故、明らかに格下に見える少年に言いたい事も言えずにいるのかというと、主君信長の命令であったからだ。
ともかく『優しく申せ』と。
青山は心中の憤りを溜め息と共に吐き出し、少年をつくづくと眺めた。
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