第3章 呪詛

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第3章 呪詛

 禍々しい紅く光る虹彩と腕香の男の記憶は、安土に戻ってからは薄らぎ、乱法師は日常を取り戻していた。  とはいえ此所は安土、乱世の覇者として君臨する信長が巨大な城を建築中で、諸国からは楽市楽座の城下町で新しい商売を始めようと商人達が続々と集い、都や堺に匹敵する程の賑わいを見せている。  そのような安土における乱法師の日常は、元々刺激に溢れていた。 「乱、この屏風はそちらへ、此処を片付けて整理し終えたら、上様の御側に行くように」 「は、私だけでございますか? 」  万見重元の指示に狼狽する。 「上様の御身の周りにいる者達と交代せよと申しておる」 「承知致しました」  小姓の仕事は基本、信長の身の周りの世話であるが、日常的な雑務、奉行衆の用を手伝ったり、外出時の護衛と多岐に渡り、ひっくるめれば雑用係りである。  小姓衆を扱き使う姑息な長谷川秀一のような者も中にはいる為、一日中動き回っても仕事が尽きる事は無かった。    実は信長のごく近くに侍る役は、一日のうちで、そう長く割り当てられてはいない。  
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