それは静謐を荒らし、安寧を妨げる終末の音色

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大雨。日曜日。 こんな日はいつも憂鬱になる。 少し寝すぎたかと、壁にかけてある時計を見ると、長針は10時を刺していた。 今日もアイツがやって来ると思うと、更に嫌な気分になる。 いつも律儀に、決まった時間に来るのだ。 「まるでA型みたいだな」 3回目の時に思わず、口に出してしまった。 皮肉を込めて言ったのだが、そういうのが通じる相手ではない。 ピンポーン 来た。今日もまた来たよ。 これで何回目だろう、アイツと顔を合わせるのは。途中で数えるのを止めた。あまりにもしつこいからだ。 今日という今日は強く言ってやろうと俺は決心する。 「丸谷さん、いるのは分かっていますよー」 まるで篭城している犯人に向かって説得する警察官のような言い方だ。 「こんな大雨の日こそ、我が社の新商品の出番です。是非説明だけでも!」 大きく息を吸い込み、呼吸を整える。 これはアイツと俺との真剣勝負だ。 勝敗は単純明快。買うか買わないか、それだけだ。 当然、俺の答えは決まっている。買わない、の一択のみだ。 これ以上、貴重な休日を奪われるわけにはいかないからな。 さっさと帰ってもらって、これ以上来てもらわないようにするんだ。 改めて決心すると、俺はドアを開いた。 「あの……傘、買いませんか?」 案の上、そこには訪問販売員の女が一人立っていた。 ただ、今日はいつもとちょっと違う。 大雨でずぶ濡れになっていた。
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