第3話

1/5
前へ
/36ページ
次へ

第3話

 宗一郎は翼が帰った部屋で、煙草を片手に考える。ビールはぬるくなってしまった。けれどそれに口をつけながら。  翼が力を欲している。調伏をする力が欲しいと言う。それはきっとあの子のため。あのボーイッシュな雰囲気の、長く付き合っているという大学生の翼の彼女。  翼は霊的な回復や調整に長けている。今現在牡丹が翼の元で眠っているが、それも翼がその術をうまく操る事が出来るからだ。いつか見た、ひな菊という座敷わらしが手にしていた鞠。  あの鞠の中で、牡丹は今眠っている。ひな菊の妖力も牡丹の回復を助けている。  依り代に霊体を宿らせ、その霊力を回復させる。それが椿が翼に教えた術だ。要は牡丹を助けるための術。  それから場を清める術、霊力を放出した宗一郎を回復させる術。椿は最初から、翼を宗一郎の補佐として育てていた。宗一郎には松川を出ろと言ったのに、翼には宗一郎がいなければ役に立たない術しか教えなかった。翼がそれを疑問に思わなかった筈は、ない。  男として、好きな女を護りたい。翼のその気持ちはよく分かる。ましてや自分が引き起こす面倒事だ。結婚すれば、配偶者は同じ家系の人間になる。強い結び付きは、時として霊障すらも共有する結果になる。  その時、宗一郎に頭を下げたくないのだろう。調伏してくれと。あの女の子の目の前で。  自分のせいで苦しめた愛する人を、その人の前で他の男に助けてくれだなんて。  そんな事は言える筈がない。翼のその気持ちは、宗一郎にも痛い程によく分かる。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加