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「……ふーん、この井戸、44メートルもあるんだ。深いね。『蓋は絶対にとらないで下さい』……って、ちょっと、翼……!」
立て看板に目を遣っていた菜々子は、突然その蓋をすかせようとする翼に驚く。とるなと書いてあるのに。抹茶のソフトクリームを片手に、翼は蓋の隙間から井戸を覗き込むと、何かを確認したのかさっと蓋を閉める。
「うん、おっけ。開けるとひやっとした。ぞっとするような、恐ろしい世界に繋がってたよ。菜々子も、見てみる?」
「やだ、翼が言うとホントに怖い。て言うか開けちゃダメだよ。ここに書いてあるでしょ? 係の人に怒られちゃう」
「だよねー。怒られるのやだもんな。さっさととんずらしよ。もうここで見るものないよね? 二の丸に下りようよ。今日天気いいから前撮りしてるかも。綺麗なお嫁さん、見に行こ?」
ソフトクリームのコーンをばりばりと食べ、翼は菜々子の手をとる。もう片手にまだバニラがたっぷり残ったソフトクリームを持った菜々子が、ちょっと待ってよと言うと。
「もう、半分食べてあげるよ」
と言って翼は菜々子のバニラにかぶりつく。半分以上なくなったソフトクリームに、菜々子は思わず笑ってしまう。口の回りを真っ白にして、あらら、かじり過ぎたなんて言う、可愛い可愛い翼。
「はい、ハンカチ。子供みたいなんだから。ちょっと待って、すぐ食べるから。前撮りの花嫁さん、こんなに暑い中でも打ち掛けなのかな。今日なんかだと、ドレスの方が楽だろうね……」
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