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第5話
今日の閉店は翼一人だった。閉店は夜10時。
宗一郎にレジの締め方は習ったし、売上金の保管方法も習った。宗一郎は、8時に家に帰って行った。温泉街の土産物屋は、旅館の夕食が始まれば店を閉めたも同然だ。
宗一郎は明日早朝から、さくらと共に調伏行脚に向かうという。松川中の観光スポットを、霊的に浄化するために。まずは御津の方へ行くと言った。松川の端、海沿いの街。確かによく『出る』という話を聞く。その後も時間をかけ、松川市の観光地を見て回る宗一郎とさくら。
さくらが連れている蜜柑という式神はとてつもなく強い。まだ力の使い方を心得てはいないが、場数を踏めばさくらはうまく蜜柑を使役出来るようになるだろう。そうだ、新しく仲間になった蜜柑。あの子がいれば、翼の微力など必要ないのかも知れない。
店を閉め、家に帰ってみるともぬけの殻だった。創はいない。この時間にいないなら、女のもとに行っているのだろう。
創はもてる。独身で50歳。複数の女がいる。翼が知っている相手は飲み屋のママと料理屋を営む女性。あと看護師もいた。30代のものすごい美人もいたが、あれはあっという間に別れた筈だ。
同じ旅館業の女性には手を出さなかったが、その他は来る者拒まずだった。流動的に相手は変わる。飲み屋のママだけは数年の付き合いになるが、他は言い寄られてとりあえず付き合ってみる相手だ。創のやり方は、翼には理解出来なかった。相手に対して、不誠実なのではないか。翼はそう思う。
翼の母親と離婚したのだって、きっと創の女癖のせいに違いない。バイタリティに溢れ、仕事や社会貢献という面では、尊敬出来る所しかない翼の父親。
けれど男としては、全く理解出来ない。一人の女性を幸せにする事も出来ない創。そんな男にすら認められない自分が、翼は情けなく、もどかしくて仕方ない。
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