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「もー、親父、アホだから……。んな時間に電話で起こされる方の身にもなれってんだよなー。大体俺、未成年の女の子じゃないっつーのに……」
「違うだろう翼。おじさんは心配してるんだ。ちゃんと遅くなるなら遅くなるって、連絡してあげないと……」
宗一郎までもが菜々子と同じ事を言う。翼はうんざりして、思わず声を荒げてしまう。
「あーもー宗ちゃんまでそーゆーのやめてよ! 21だよ俺! 大体あのクソ親父、自分だってちょこちょこ朝帰りすんだよ!? あちこちに女いてさー。女の家から俺に電話して来たりして、それに出ないと大騒ぎ! もー意味分かんねーよ!」
翼は昨夜、結局あのまま菜々子の部屋でまた眠ってしまい、目が覚めたら夜中の3時だった。翼はスマホを切っていたが、菜々子の方が鳴って起こされた。鳴らしたのは……もちろん、創である。
平身低頭で謝る菜々子の声で目が覚めた。翼は激しく腹を立てた。どうして菜々子が謝らなければならないのだ。もちろん創も『菜々子が翼を帰らせない』訳でなく、『翼が菜々子の家から帰りたがらない』事は分かっているから、菜々子を責めはしない。電話の向こうから創の声が漏れてくる。『申し訳ないな、翼はいるか、無事ならいいんだ、早く帰るように伝えてもらえるか……』
翼は菜々子のスマホをひったくって怒る。
「俺がいくつか分かってる!? 菜々子といるんだ、邪魔すんなよ!」
慌てる菜々子。黙る創。「す、す、すぐ帰らせます!」と叫ぶ菜々子の顔を立てて、一応は帰ったけれど。
「まあ……おじさんの気持ちも考えてやれよ」
詳細を語らない翼に、宗一郎も深くは訊かない。おそらく長く付き合っているという、あの女の子といたのだろう。両親が転勤で東京に行ってしまい、一人暮らしをしているという、同じ大学に通う翼の彼女。
宗一郎はちゃんと紹介してもらった事がない。たまたま街で一緒に歩いている所を何度か見かけた。ボーイッシュな印象の、可愛らしい女の子だった。創が宗一郎によくこぼす。とてもいいお嬢さんなんだが、翼がのめり込み過ぎて困っとるんだよ、と……。
そう言われても宗一郎も困るのだが、要は創は『翼を諌めてくれ』と言っているのだろう。今日の宗一郎はその意を汲んで、創の擁護をする。
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