第2話

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第2話

 夕方にはさくらがやって来た。うだる暑さにげっそりとした表情。長いウェーブの髪が首すじに貼りついて、湿っている。 「おっつかれさまー。あー地獄の暑さよ。うちの学校、夏休み中エアコンがつかないのよ。意味分かんない。雨も一切降らないし。もーだめ。アイス、アイスある……?」  よたよたと現れたさくらは制服姿。翼は笑ってさくらに言う。 「さくらの好きなやつ、いっぱい冷凍庫に入れてるよ。補習お疲れ様。頭使うと糖分足りなくなるから、食べといで? 裏に宗ちゃんもいるから」 「……ありがと。蜜柑、アイス食べよ。お兄ちゃんに食べさせてもらお。あーもー何にも分からない。日本語以外の言葉、これっぽっちも分かんない……」  カバンを片手にさくらは重い足を引きずって、店の奥へと消えていく。宗一郎がいると聞いて、若干顔がにやついたのを翼は見逃さない。良かった、傷はだいぶ癒えたようだ。  どんな心境の変化か、さくらはこの夏休みにみっちり補習を入れている。偏差値の低いお嬢様学校では、選択で取る補習。2年生のさくらは、去年は一切行っていなかったのに。  さくらなりに思う所があったのだろう。訊けば大学は外部受験を考えていると言う。翼の通う国立大の話を訊いてくる。いい事だ。今までのさくらを思うと、驚きしかないけれど……。  そんなさくらの後ろから顔を覗かせて、ピンクのワンピースに身を包んだ蜜柑が翼に話しかける。 「つ、翼くん、アイス、ありがとう。あれね、すごく美味しいの。お兄さんがね、私にも食べられるようにしてくれて。冷たくてね、私びっくりしたのよ。翼くん、どうも、ありがとう……!」  にこっと笑って、翼はそんな蜜柑に手を振る。翼の反応を確認してから、ぎゅっと拳を握ってさくらの背を追う、蜜柑。  可愛らしいあの式神。とんでもない力を秘めている。13歳の可愛い顔をしているけれど、その実は400年以上松川城で歯車として働いてきた、古い霊だ。  ――あんな式神が自分にもいたら。翼は無意識のまま思う。  大きな力を得る事が出来る。宗一郎に頼らずとも、拝み屋として恥ずかしくない程度に自分を護れる。  宗一郎を羨むつもりはない。素直に乞うて、教えてもらおう。  翼は宗一郎の力が欲しい。式神にアイスを食べさせられる、強い力を持った宗一郎。
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