2人が本棚に入れています
本棚に追加
シャリオンとあまり変わらない小柄な背丈をローブに隠し、必要最低限のものを詰めた簡素だがやや大きめの道具袋を肩から下げている。
まるで子供が大好きな憧れのヒーローを鼻息荒く語る時のような、説得には程遠い抽象的な言葉だが、それでもその言葉は少なくとも自分たちにとっては紛れもない事実であると、シャリオンは昔から知っている。
テオのどこか自信に満ちたような笑顔につられるように、シャリオンもまた口元を綻ばせた。
「……はい。ありがとう。テオくん」
そうだ。大丈夫。彼は、誰にも負けない。自分たちを残して、死んだりなんてしない。
彼はきっと、あの約束を守ってくれる。
「───いたぞ!こっちだ!」
不意に大きな声が聞こえて、シャリオンは我に返る。
目の前の茂みのなかで、さきほどまでこちらを見失っていたはずの騎士兵たちが逃がすまいと急いでこちらを取り囲んでいた。油断して長話が過ぎたらしい。
「お逃げください!」
叫んだギルダーツが前に飛び出し、右手を前に突き出した。すると、音もなく彼の足元に眩い緑の光を放つ円形の陣が浮かび上がる。
響鳴術。しばしば人の精神力や生命力などと同一視される、人の体内を流れる響力を用いて発動させる人智の及ばぬ奇術。
理論においてはこの世界に存在するそれぞれの属性の精霊の力と響鳴し、術を行使するということから響鳴術と呼ばれ、伝わっている。
また、この術は精霊の力と響鳴できる素質がなければ行使できないという説も考えられている。
「吹き荒れろ旋風───、ウィンドゲイル───!!」
ギルダーツの手を中心に旋風が吹き付け、数いる騎士兵の三人ほどが思い思いの悲鳴をあげながらなぎ倒されていく。
「こっちへ!」
テオがシャリオンの背中を押して駆け出す。
しかし、
「おとなしくしろ!」
いち早く感づいたのか、騎士兵の一人が回り込み、二人の行く手を阻んだ。槍を構え、動くなと制す。その隙に新手の騎士兵が駆けつけ、二人を囲った。
シャリオンは慌てて振り返った。ギルダーツもまた残りの騎士兵たちに距離を詰められて身動きが取れず、悔しそうに歯噛みしていた。
「そこまでだ。おとなしく投降せよ」
最初のコメントを投稿しよう!