最強を越えるもの

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 東丈は、ウルトラマンが嫌いである。  巨大な赤と銀の宇宙人が、所詮は凶暴な怪獣をプロレスの末に抹殺する。子供向けの特撮番組なのだから、目くじらを立てるほうが野暮なのだろうが、気に入らない。まあ、自分が高校生で、もはや特撮番組に興じるような子供ではないという自意識もあるのだが。何よりも、あいつが雲をつく巨人だというのが、気に喰わないのだ。まるで、彼の、出来のよすぎる”無敵”の弟のように。  小柄な丈からすれば、弟は見上げるような巨体なのだ。さらに膂力のある彼からすれば、兄の首根っこ(襟)を掴んでネコの子のように”無力化”することも可能なのだ。マンガのような話だが、実際にそれをやられたのが一回や二回ではすまない。天才少年柔道家、未来のオリンピック選手間違いなしとさえ噂される彼には、不可能は無いのじゃないかとさせ思えるわけで。  そう、そんなとき、自分が性悪の怪獣になったような気になるわけで。  すでに、柔道で弟を負かすことが不可能と決め手、河岸を”公式野球部”つまり”甲子園”に変えたのだった。さすがに柔道で忙しい弟、甲子園まで追いかけてくることは不可能だからだ。  丈は体も小さく、肩も弱い。弟の卓と足して二で割れば、きっと”ちょうど良い人”になるに違いない。顔は、確かに顔だけは、いかつく四角く、どこか茫洋とした弟と比較して、銀幕のスターにしたいほどだといわれるが、何の慰めにもならない。  小さいころから”女の子みたいだ”とけなされ、変に女の子にもてて見せれば、嫉妬深いガキ大将のいじめのターゲットになっていたからだ。  そして、いじめられたときに、銀の巨人のように現れるのが、小さいときから大人並みの体躯を持っていた弟なのだから、救われない。  兄の面目丸つぶれ、両親からも、かげながらとはいえ、はっきりと”出来損ない”という、死刑宣告を行われていたのだった。  というわけで、東丈は、自分という人間のすべてが嫌いだった。その結果、彼の性格がかなりいびつになったとしても、誰もが納得するだろう。むしろ、そんな中で、彼が、公明正大な、聖人君子になれるとしたら、彼を知る人間は、それは奇跡ではなく、”何らかの嘘”がそこにあるに違いないと考えるのが当然というものだろう。  ウルトラマンにやられて、手負いになった怪獣がさらに身を守るために凶暴化する、そんな無残さが、東丈にはあった。
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