事件?

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ

事件?

 うつ伏せで倒れる私の頭上で二人の話し声がする。 「警部」 「来たのかね、明智くん」 「ええ、事件となればこの名探偵明智の出番ですから」  自分で名探偵とか言ってる……名前もまんまだな! 「頼りにしてるよ。被害者は山下香奈。十七歳」 「お若いのに……」  まったくだ。 「死因は後頭部をこの大理石の灰皿で殴られて即死」 「うーむ」  人間って脆いね。儚い。 「被害者は数日前、カレシと喧嘩したと周囲に漏らしていたそうだ」 「ではその線で捜査を?」 「ああ」  待って、カレシに容疑かけられてる! ただ私のプリンを横取りしたことで口喧嘩しただけなのに! と言うか何故知っている? 情報網侮りがたし。 「警部」  探偵が私の傍にしゃがみ込んで手の中の物を抜き取っていった。 「何か握ってました。これは……ダイイングメッセージ!」 「なに?!」  緊迫した雰囲気になってきた……。 「この密室の謎を解く手がかりになるな」  警部、そういう大事なことは先に言うべきでは?  密室、もとい、玄関のドアの鍵が開く音がして、ドアの開け閉てと同時に、 「ただいまー」  と声が聞こえた。 「あ、ママだ」「おかえりー」  警部と探偵、もとい、双子の従兄弟達は玄関先まで走っていった。  私はむくりと体を起こして生き返った。うつ伏せになっていた所には縄跳びが体に沿った形で残っている。大理石の灰皿……ではなくティッシュボックスを机の上に戻す。 「おやつにするから手を洗ってからジュースの準備をしてね」  と叔母さんの声に双子が「はーい」とぴったり揃えて返事をした。  叔母さんがリビングに来て言う。 「遊び相手ありがとね」 「いえ、寝てるだけの役だったので」 「あら、眠れる森の美女?」  ふふ、と笑って叔母さんはキッチンの方へ行く。サスペンスドラマごっこで死体役でした、とは言えなかった。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!