22人が本棚に入れています
本棚に追加
*
車内前方でドライブレコーダーの立体映像が流れている。太い枝の上を、白い動物が左から右へ飛び跳ねていった。ほっそりした体つきで、尾の長い鳥のような姿をしている。首元で緑色の光がきらめいていた。
「僕はコパリオンに変身してたんだね。トロオドン科の恐竜の、古い種類だよ」
車内に座席は一つだけある。その後ろに、人が一人うずくまれるくらいの広さの空間があった。マキナさんのトランクだ。ツキはそこで膝立になって、俺と一緒にさっきの映像を見ていた。
俺は席に着いたまま顔を上げた。フロントガラスの向こうに、ドライブレコーダーと同じ森の景色が広がっている。俺は立体映像を指差した。
「ツキの故郷もこれで探せばいいのに」
「そんなに昔の記録は、さすがの私にももう残っていませんよ」
マキナさんが笑った。
「羽揺はこれをかけてくれる? 目盛は録画時刻に合せてあるから」
ツキから星の目グラスを受け取る。俺はそれをかけた。太い枝の上を、白い動物が左から右へ飛び跳ねていった。
「昨日、学校の塀が壊れた時刻を、星の目グラスで探り当てたよね。それと同じことをしてくれるかな」
「……同じこと、っていうと?」
眼鏡を外し、俺は訊ねた。
「過去の僕が――つまり、今見たコパリオンがどこからやってきたのか、調べるんだよ。今、コパリオンはどっちから走ってきた?」
ツキが言った。俺は答えた。
「左からやってきたよ」
「じゃあ、マキナに『左』と言って」
「ひ、『左』!」
マキナさんは少し左に移動した。ツキが続ける。
「次に、眼鏡の目盛を何秒か過去にずらして」
言われた通りにして、また眼鏡をかける。コパリオンが森の奥から駆けてきて、枝に飛び乗るところが見えた。
「今度はどっちから走ってきた?」
「奥……だから、『前方』!」
マキナさんが少し前に進んだ。
「それを繰り返していけば、過去の僕が降り立った場所に辿り着けるはずだよ」
「なるほど」
最初のコメントを投稿しよう!