22人が本棚に入れています
本棚に追加
日が出たばかりで、森の中は薄暗かった。
過去のマキナさんを待ち構える。マキナさんは透明になって、大きな倒木の裏に身を潜めていた。
トランクの床でリボンがぴょこりと動いた。
「もう少しですよ、トゥキ様」
マキナさんがなだめるように言った。
白い光が現れた。マキナさんがドローンを飛ばす。俺は咄嗟に座席の後ろを見た。
マキナさんが言った。
「ドローンはトランクではなく、天井の中にしまってあるんです。車内からは見えませんよ」
「なあんだ」
光の中から過去のマキナさんが飛び出した。猛スピードで森の中を走り、俺たちが隠れているのとは別の倒木に突っ込んだ。俺はそのあまりの迫力に、びくりと体をこわばらせてしまった。
過去のマキナさんが後退する。ボンネットから木屑がポロポロと零れ落ちた。けれど、そこにはかすり傷ひとつ付いていなかった。
「……丈夫なんだな」
「人工蜘蛛糸繊維でできているんです。銃弾も跳ね返しますよ」
マキナさんは誇しげに言った。
「銃にも負けないの!? すごいなあ」
「ふふ、ありがとうございます」
天井燈が暖かな色に染った。
車内前方に動画が映し出された。過去のマキナさんを真上から見たものだ。今まさにドローンが撮影しているらしい。
映像の中のマキナさんがうっすらと透け始めた。車体全部が透けるんじゃない。天井だけが透明になって、車内の様子が丸見えになる。
「透視映像です」
マキナさんが教えてくれた。
座席にいるのは過去のツキだろうか。あの、白い長髪を垂らした人間の姿をしている。でも、表情はわからない。真上から撮っているから、つむじしか見えないんだ。
ぎこちない手つきで千変鏡を構えている。過去のマキナさんに使い方を教わっているようだ。車外には一匹の赤茶色のコパリオンが立っていた。
映像が拡大される。過去のマキナさんのメーターパネルが映し出された。オドメーターには「0yr 4d」と表示されている。その下にはこんな文字列があった。
(数字はいい加減だ。四年も前のことだから、俺も正確な値を憶えていないんだ。申し訳ないけど、これで我慢してほしい)
最初のコメントを投稿しよう!