第3話 ジュラ紀の森

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 暗い森の中を歩く。紫がかった早朝の空が木々のあいだから覗いていた。よく見ると、まだ星屑が煌めいている。  涼しい風を体に受けながら、星の目グラスで見たあの大きな影を思い返す。  あれは何だったんだろう――マキナさんは植物食恐竜じゃないかと言っていた。確かに、大きな恐竜には植物を食べるものが多い。植物を消化するのに、長い腸が必要なんだと図鑑に書いてあった。しかも、体が大きければ肉食動物に襲われにくい。アフリカゾウやアジアゾウが、ライオンやトラに狙われにくいのと同じだ。  けれど、肉食恐竜にも大きなものはいた。大きな獲物を狩ることのできる、大きな肉食動物が進化したんだ。この時代のこの場所には、ケラトサウルスやトルヴォサウルスがいる。それから――。  俺は足を止めた。呼吸も止るかと思った。  遠くの木々のあいだを、大きな影がのそりのそりと横切ってゆく。全体的には黄色っぽい。肩周りは焦茶色に見えた。首筋は青くて、目のまわりは赤い。二本足で歩く、巨大な肉食恐竜がそこにいた。  辺りのにおいを嗅いで、何かを探しているように見えた。俺は手のひらを胸に当てた。鼓動が速くなっていた。  その手前に別の一頭が現れる。二頭もいたんだ。俺は音を立てないよう、素早く木の影に隠れた。  こっそりと様子を窺う。二頭は並んで歩いていた。どちらも同じくらいの大きさだった。手を高く挙げれば、「よしよし」と頭を撫でられるくらいの高さだ。もちろん、そんなことは恐しくて出来っこないけど。  大きな口から鋭い歯を覗かせている。目の上には小さくて赤い、三角形の角が生えていた。俺は確信した。アロサウルスだ。  図鑑のアロサウルスは全身に鱗をまとっていた。一方、本物のアロサウルスは肩周りに焦茶色の羽毛を生やしている。星の目グラスで見た動物の正体も、たぶんこれだ。  胴体や尻尾についてはほとんど何も憶えていない。大好きな恐竜に出会えて確かに嬉しかった。でも、吞気に観察していたら喰われちゃうじゃないか。
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