第3話 ジュラ紀の森

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 俺はゆっくりと後ずさり、振り返った。そして、頭の中が真白になった。  目の前に三頭目がいた。鼻と鼻が触れ合いそうなほど近くにいた。口先が鳥のくちばしのように固くなっている。肩が毛に被われているので、正面から見ると胴体はふっくらとしていた。  アロサウルスが口を開く。  悲鳴をあげる暇もなかった。俺はアロサウルスの股を駆け抜けた。意外と腹が低くて、地面に手をついてくぐり抜けた。その時に見た大きな足は、今でもはっきりと憶えている――足の甲は瓦のような鱗で被われていた。爪は日頃から地面と擦れて、先っぽがすり減っていた。  俺はマキナさんのもとに駆けつけた。ツキが車内で立体画像を眺めている。本のような形をしていた。小説を読んでいたみたいだ。 「は、早く帰ろう。今すぐに」  俺は後ろを指さした。アロサウルスが三頭、軽かな足取でこちらに走ってくる。ツキは目を見開いた。 「アロサウルス・フラギリス……」  俺をマキナさんに引き込み、ドアを閉める。一人用の座席に二人、しかも急いで乗り込んだので、車内は大混雑だ。 「マキナ、起きて」 「マキナさん、起きろ!」  二人でマキナさんを起す。計器盤にぽつり、ぽつりと光が灯った。 「うーん、あと五分……」  マキナさんがむにゃむにゃと言った。三六〇度、どの窓を見てもアロサウルスがいる。ツキが冷静に言った。 「早く、羽揺の部屋へ」  一頭が車内を覗き込んでくる。ドアのガラス越しに目が合った。瞬膜の下から、野球ボール大の黄色い眼玉を覗かせる。俺の頰を一筋の汗が伝う。 「行先、第四紀完新世、日本」  マキナさんの言葉の直後、窓の外に白い霧が立ち上った。光に驚いたアロサウルスたちが、一目散に霧の向こうへ逃げていく。
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