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扉を開ける。その向こうを見て、俺は思わず「わっ」と声を上げた。部誌のことなんてどこかへすっ飛んでしまった。
玄関に仮面をつけた男が立っていたんだ。
「ど、どちら様ですか」
びくびくしながら訊ねる。男は「そうだなあ」と考える素振をしてから、「ユウとでも呼んでよ」と軽々しく言った。
ユウさんは俺よりほんの少し背が高かった。なぜか半透明のレインコートを羽織っている。その中に着ているのは白い半袖のシャツ。防水加工のある紺色のロングパンツを穿いていた。裾の下に見え隠れするのは黄色いレインスニーカーだった。
「ユウさん。ご用件は」
彼は「あ、そうだったそうだった」とわざとらしく頭を搔いた。
「実は、この家に泊めてほしくてお邪魔したんだよ」
白い中華風の仮面には目の穴が二つあいていた。黒い瞳が俺を見下ろし、微笑む。
背筋がぞくぞくした。どうしてこの家に泊まるんだ? どうして顔を隠しているんだ? 意図がわからなくて、気味が悪かった。
「親を呼んでくるので、待っていてもらえますか」
上ずった声で、やっとそれだけ言った。俺が振り返ると同時に、ツキが廊下にやってきた。
「どうしたの。羽揺」
ツキが玄関を見た。そして、ユウさんの風貌にぎょっとする。
俺はもう一度ユウさんを見て、ツキとは違う意味で目を見張った。彼は傘立を物色していたんだ。
「ユウさん、それ、俺の傘」
ユウさんは紺色の傘を引き抜き、一人で外に出て行った。
俺たちは頷き合うと、外に飛び出した。
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