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「やっぱり晴れてるじゃないか」
ユウさんが会計を済せている間。店の外に出て、俺は拍子抜けた。道路に張った大きな水たまりが、昼間の日の光を反射させていた。
ツキがふふっと笑った。
「『何が起るんだろう』って身構えてたけど、杞人の憂えだったね」
俺たちは笑い合った。
ユウさんが歩いてきた。大きな買物袋を片手に提げている。もう片方の手には俺の傘が握られていた。
「ユウさん。その傘使わなかったんですから、早く返してくださいよ」
俺が声をかけた、その時だった。
自動車が道路を走り抜けた。水溜りが巨大なしぶきになって俺たちに襲い掛かる。ツキが腕を盾にした。俺は目をつぶった。
まぶたの向こうで、水が何かに当って弾けた。
不思議に思って目を開ける。紺色の傘が開かれていた。水に濡れてキラキラ輝いている。一方、俺は濡れていなかった。ツキも無事だった。
ユウさんが傘を畳む。彼の体は濡れていた。つるつるしたロングパンツが水滴をはじいていた。
「未来から来たんだね」
いつもより低い声で、ツキが言った。
そうか、と俺は納得した。ユウさんはこうなることが分かっていて、俺の傘を持ち出したんだ。レインコートを着てきたのも同じ理由からだ。
「誰? 何をしにやって来たの?」
ツキが睨む。
その剣幕を吹き飛ばすように、ユウさんは爽かに笑った。
「俺は『ただの助っ人』だよ」
そう言って、俺に傘を返してくれた。
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