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「ツキ、俺はもうかけたよ」
俺の部屋で、ツキに免疫スプレーを手渡す。ツキはそれを受け取る前に、確認した。
「喉も?」
俺は「あっ」と声を漏らした。
「忘れてた……今からかける」
ユウさんは床に坐り込み、どら焼を食べていた。レインコートを脱ぎ、ズボンも履き替えている。仮面を少しだけずらし、口をもぐもぐさせていた。
「はい。これは手を付けてないよ」
ユウさんが皿を差し出してくる。どら焼からは湯気が立っていた。バターと小豆の甘い香りも漂ってくる。俺はそっぽを向いた。
「遠慮します」
「どうして。好きなんだろ」
鳥肌が立つ。ごくんと唾を飲み込んだ。確かに、俺はどら焼が好物なんだ。
「……どうして知ってるんですか」
おそるおそる振り返る。ユウさんが未来人だとしても、果してそんなことまで調べられるのかな。誰にも話したことがないのに。どこにも書いたことがないのに。
「ユウさんって、何者なんですか」
「だから、ただの助っ人だよ」
何度訊いても、同じ言葉を繰り返すばかりだ。
「『助っ人』と言いましても、一体全体、私たちの何を助けるのですか。人手はもう足りています」
マキナさんが言った。ユウさんはどら焼を吞み込んで、彼女のカメラを見詰めた。そして、こう言い放った。
「これから陥るんだよ。ピンチに」
マキナさんが黙り込む。ツキが顔を真青にさせた。俺は息を飲んだ。
俺たちの反応をユウさんが笑い飛ばす。
「心配するなよ。本当のピンチになった時は、俺が颯爽と駈けつけてやるから」
ツキが困惑気味に訊ねる。
「だとしても、どうして僕たちを助けるの? 僕たちと何の繋りがあるの?」
ユウさんがペットボトルのお茶を一口含む。そして、ぴんと立てた人差指を口元に添えた。
ツキは首をかしげた。
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