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霧が晴れるように、外の景色がだんだんとあらわになった。
はじめに見えたのは、フロントガラスに擦れる青い木の葉だった。それから、葉をつけた細い枝が姿を現した。横の窓に目を向ける。こっちも緑ばっかりだ。
マキナさんは緑の生い茂る森の中に停っていた。
「また森?」
俺はマキナさんに言った。
「場所は合っているはずですよ」
彼女が言った。
俺たちはマキナさんを降りた。人間に変身したツキがマキナさんの背後を指差す。
「海が見える!」
木々の間に白い雲が浮かんでいた。その下で、水平線が緩い弧を描いている。俺は走って森の外へ飛び出した。
陽射しが照り付ける。濃い青色の海が見渡す限り広がっていた。額に汗がにじむ。
「充電中、充電中……」
熱い砂浜の上でマキナさんが日向ぼっこを始める。緑色の充電ランプが車内で点滅していた。ツキは森から距離を取って、辺りの景色を確認している。
俺は森に向き直った。
浜辺の緑のなかに白い小振な花々が咲いている。そこへ、ブウンと低い羽音が近づいてきた。俺はぎょっとしてのけぞった。見ると、花の中に指先大の虫が潜り込んでいる。赤い腹をきらめかせる、虻のような姿の昆虫だ。虻が飛び立つと、花が跳ね返ってゆらゆらと揺れた。甘い香りがツンと俺の鼻を突く。虻の脚に黄色い粉がくっついていた。
浜を駆け降りる。
波打際に、何やら見憶えのある物体が打ち上がっていた。「あっ!」と声を上げる。俺は嬉しくなってそれを拾い上げた。綺麗な螺旋を描いている。一見すると、白い巻貝の殻みたいだ。俺も化石を持っている。アンモナイトだった。
表面の砂を払う。中から針金のようなものがはみ出て、ぴくぴく動いていた。俺は殻の中を覗き込んだ。同時に、瑠璃色のヤドカリが顔を出す。俺はびっくりして、それをぽとりと砂浜に落としてしまった。ヤドカリは細い触角で外の様子をうかがい、とことこと渚を歩いて行った。
その近くには足跡も残っていた。細い三本指は、鳥や肉食恐竜みたいだ。でも、それにしては様子がおかしい。ところどころ、おかしな足型が混ざっていたんだ。まるでFの字のような恰好をしている。
今まで見たことのない形だった。一体、どんな動物がこれを残したんだろう。
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