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俺はあたりを見回した。西には森がある。東には海がある。過去のツキたちは陸から来るのかな。それとも海から来るのかな。
「二手に分かれよう」
ツキが提案する。すかさずマキナさんが言った。
「森を探します。私は泳げないので」
その言葉にツキが頷く。
「じゃあ、陸はマキナに任せるよ。僕と羽揺は海を探そう」
マキナさんが飛び立ち、森の向こうへ消えてゆく。俺はツキに訊ねた。
「どうやって海を行くの」
まさか、ヤドカリに変身して大海原に乗り出すわけじゃないだろうな。
ツキが海を眺めながら言った。
「泳ぎの得意な生き物に変身したいけど――ここは浅瀬だから、大きな動物は寄ってこられないね。少し移動しよっか」
俺たちは海に沿って歩いた。
砂浜に岩が混じりはじめる。二枚貝がくっついているものもあった。けれど、歩き進めるうちに貝附の岩は少くなった。もしかしたら、海が満潮に近づいていたのかもしれない。
磯でツキが立ち止る。俺は沖を見た。
緑色の島があった。木々の一本々々が辛うじて判別できるくらいの距離だ。
島と磯のあいだの水面下に、影が走った。白い波を立てながら、自転車くらいの速さで横切ってゆく。黒っぽい体がイルカのように飛び跳ねた。
「ポリコティルス類だよ!」
そう言いながら、ツキはもう千変鏡を取り出していた。全長二メートルほどの白い動物に変身して、海に飛び込む。しぶきが上がった。
「ツキ、待てよ!」
俺はそれを追った。靴を履いたままじゃぼじゃぼと海に入る。制服のズボンが濡れて、脚に貼り付いた。冷たかった。
胸元まで水に浸かる。ペンダントの宝石が水中を漂った。俺は滑る手でなんとか千変鏡を取り出した。鏡面には水滴がついている。
鏡を構え、さっきの動物が現れるのを待つ。
海面から黒い体が飛び出した。腹はカスタードクリームみたいな色をしていた。暗い紫色の目玉でこちらを見ている。俺は狙いを定めた。
体が大きくなってゆく。手のひらで水をかくと、足が底から離れた。随分深いらしい。俺は海の世界へ繰り出した。
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