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視界の端に、表面のつるつるした櫂のようなものが映る。自分の前鰭だった。
泳ぎなれなくて溺れそうになる。前の鰭と後ろの鰭。左の鰭と右の鰭。同時に動かすのか、交互に動かすのか、よくわからなかった。
じたばたしているうちにコツがつかめてきた。クロールのように左右の手足を別々に動かしていると、上手くいかない。平泳ぎのように左右対称に動かすといいみたいだ。
景色は大して鮮かじゃなかった。人間の目と比べても、色の数は少かったと思う。同じ爬虫類なのに、カンプトサウルスとは大違いだ。
よく見ると、前方に細長い鼻面が伸びている。自分の吻だった。その上で光がレースカーテンのように揺れている。
海中に一頭の動物が漂っていた。甲羅のないウミガメみたいな姿をしている。頭は前後に細長い。白い肌はツルツルとしていて、鱗がなかった。首元で宝石がキラリと光った。
「やることは昨日と同じだよ。過去の僕を探すんだ」
ツキの声が聞こえた。白い動物が俺を見つめている。
「わかった」
俺は言った。俺たちは沖へと泳いでいった。
海中の景色は素晴しかった。銀色の魚群が目の前を横切ってゆくこともあった。それから、よくサメを見かけた。何匹も何匹も出てくるので見飽きちゃったけど、最初に見たときは恰好いいなと思った。
アンモナイトが底近くの海中を泳いでいた。イカのような腕を漂わせている。
次の瞬間、何かがアンモナイトをかっさらっていった。気が遠くなるほど首が長い。全長は十メートル以上あったと思う。ポリコティルスやフタバサウルスと同じ、首長竜のなかまだった。
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