第4話 日本は海の底

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 俺は過去のツキを探して海の深いところへ潜っていった。泳ぎにもすっかり慣れて、まるで本物の首長竜みたいだと我ながら思った。海面が遠ざかるにつれて辺りも暗くなってくる。  巨大な岩があった。岩肌にあの二枚貝がたくさんくっついていた。海底をエビが歩いている。  岩の下には隙間があった。真暗でよく見えなかったけれど、かなり広いと一目でわかった。ウミガメだって首長竜だって、家族で身を隠せそうだ。  身をよじって覗き込み、目をこらす。そして、絶句した。  暗闇の中に目玉が浮いていたんだ。ボーリングの球ほどもある大きな眼球が、岩の下で静かに漂っていた。  目玉がくるりと動いて、俺をまっすぐ見つめる。  俺は吹き出してしまった。口からボコボコと気泡が逃げる。溺れそうになりながら、死にものぐるいでツキのもとへ泳いだ。 「目玉だけの生き物なんているはずがないでしょ」  俺は必死になって目玉の話をした。けれど、ツキは静かに笑ってそれを受け流した。 「本当に見たんだけどなあ」  見間違いなんかじゃないと思うんだけど。  そのあとも、俺たちは海の中を泳ぎ回った。けれど、なかなか過去のツキは見つからなかった。  俺は息継ぎをしに海面から出た。肺に新鮮な空気が行き渡る。そのとき、頭上を白い影が飛び去った。  翼をひろげた長さは二メートルくらい。一見、大きな鳥みたいな姿をしている。でも、鳥にしては様子が変だ。翼は羽根の集まりじゃなくて、コウモリのように皮が張ってできている。空飛ぶ爬虫類、翼竜だった。  翼竜は、海上を蛇行しながら飛んでいた。急上昇したり、急降下したりを繰り返している。 (……あれ?)  俺は目を細めた。首で何かがきらりと光ったように見えたんだ。  今度は翼竜の首だけを注視する。急降下するときに、首元で小さな光がちらついた。やっぱり、何かを首につけている。  今度は先回りして、翼竜を待ち伏せた。  翼竜が急降下した。相手に見つからないように少し離れて様子をうかがう。それでも細かいところまで観察できた。  体は白かった。でも、肌が白いわけじゃない。鳥の雛みたいに短い毛が生えていて、その毛の色が白かったんだ。翼には黒い筋模様が入っている。首には細い鎖のようなものがかかっていた。そこに緑の宝石がぶら下がっているのが、ハッキリと見えた。  俺は確信した。過去のツキは翼竜に変身していたんだ。
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