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「確かに、これは昔の僕だね」
星の目グラスをかけたツキが言った。
俺とツキはマキナさんに乗っていた。彼女は海面に漂っている。車体の下部で風船のようなものが膨んでいた。これのおかげで、ゴムボートみたいに水に浮んでいられるんだ。
「羽揺さん、進路の指示をお願いします」
マキナさんの言葉に俺は頷いた。窮屈な車内でツキから星の目グラスを受け取る。
ツキが視細い指で四次元ペンダントをいじる。取り出した千変鏡でリボンに変身した。
マキナさんが飛び立つ。四つの羽が回って、海面に波紋を描いた。ツキはぴょこぴょこと跳ねて俺の頭にくっついた。
星の目グラスをかける。空の向こうから白い翼竜が飛んでくるのが見えた。
「マキナさん、二時の方向へお願い」
海上を飛ぶ。俺は、星の目グラスで過去のツキを追った。方角をマキナさんに伝える。その都度、彼女が進路を調整した。
耳の上でリボンがもぞもぞと動く。俺は、頭のなかにいろんな動物の姿を思い浮べた。
ミヤマカラスアゲハ、イエネコ、ドリオレステス、カンプトサウルス、コパリオン、ポリコティルス類、翼竜――。
「ツキって何の動物だったんだろう」
「何の動物だったのでしょうね」
マキナさんが考え込むように言った。
「検討もつきません」
レンズの向こうで景色が変ってゆく。太陽がずんずんと東に沈んでゆく。空が朝焼色に染まり、やがて夜になった。
遠方に陸地が見えてきた。小さな島だ。ごつごつした黒い影が迫ってくる。その手前に、大きな光の塊が現れた。
「マキナさん、停って!」
俺は眼鏡をはずした。午後の太陽の下に岩だらけの小島があった。崖に翼竜が群がっている。
マキナさんは島の脇に回り込んだ。そこには小さな浜辺があった。一匹の翼竜が翼を折りたたみ、歩いている。
マキナさんは透明になって、慎重に浜辺に着陸した。
俺は隠れコートを着て砂浜に降り立った。翼竜の後姿がある。結構大きい。地面から頭の上まで二メートルはあった。右の翼、左の翼。まるで松葉杖をつく人みたいに、ゆっくりと歩いていた。
翼竜の背後にこっそりとしゃがみ込む。そして、俺は一人で何度も頷いた。あのFの字の足跡が残っていたんだ。
俺たちは島の正面に戻った。マキナさんが風船をふくらませ、着水する。光の塊が現れた場所より、少し沖合だった。
俺はそこで、星の目グラスの目盛を読み上げた。窓の外がまばゆい光に包まれた。
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