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その時、マキナさんのボンネットに黒っぽい爬虫類が乗りあげた。二つの大きな目が俺に焦点を合せる。俺はぎっくりとして、ノートを脇に落してしまった。
思ったより小さな動物だった。人間よりひとまわり大きいくらいだ。細く開いた口に、円錐形の歯がずらりと並んでいる。
「も、モササウルス類だ」
俺は口だけ動かした。
「私の光に寄ってきたのですね」
マキナさんが言った。
突然、モササウルス類が怯えた様子で逃げ出す。三角形の尾鰭をみなもに打ち付け、泳ぎ去った。
次の瞬間、マキナさんが大きく揺れた。ぐんぐんと前方に引き込まれる。海の中に何かがいるんだ。
「マキナさん、何が起ってるんだよ」
俺は不安にかられた。
「何かが巻き付いています」
彼女が冷静に答えた。
けれど、窓の外にそれらしき姿は見えなかった。ただ、光が波を照らしているだけだ。
マキナさんは止った。波が浮きの風船にぶつかり、じゃぷんと音を立てる。
今度は、車体にコツン、コツンと何かが当った。それが低い音になって、海水をふるわせる。俺は、大きな鳥みたいな動物が、マキナさんにくちばしを突き立てているんだと思った。
俺のほほを汗が伝った。
「マキナさん、そこに何がいるんだ」
俺は気持を抑えきれず、訊ねた。
「わかりません」
マキナさんが困惑したように言った。
「私のカメラに映らないんです」
俺は、彼女の言葉が信じられなかった。コツン、コツンという振動が、床を伝って確かにこの足に響いているのに。
今度は、車体がゆっくりと前方に傾き出した。床に落ちたノートがするりするりと滑り、俺の足元で止まる。フロントガラスいっぱいに、暗い海中の風景がひろがる。
巨大な眼玉が車内を覗き込んだ。
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