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俺はマキナさんに乗った。車内前方に地球の立体映像が浮び上がる。地球はゆったりと自転していた。
大陸の形はやっぱり現代と違っていた。南北に細長い海が北米大陸をまっぷたつにしている。ヨーロッパは水びたしで、小さな島々が散らばっているだけだ。
ツキが車外から説明した。
「白堊紀の地球は今よりずっと暖かかったんだ。北極や南極の氷も海にとけてた。水かさが増したことで、それまで陸地だった場所も沈んじゃったんだよ」
ツキが北の大陸の東端を指さした。
「僕たちが今から行くのはここ。現在の日本列島があるあたりだね」
「知ってる!」
俺はハキハキと言った。
「映画を観たよ。ピー助がいたんだよな」
ツキは笑った。
「そうだね。でも、フタバサウルスの棲息年代より少し時代が下るから、会うことはないと思う」
ユウさんはあぐらをかいて、俺たちの会話を黙って聴いていた。
ツキがリボンに変身し、俺の頭にくっついた。メーターパネルが慌しく点滅する。
「ちょっと待って。持っていきたい物があるんだ」
俺はマキナさんを降りた。シャーペンをワイシャツの胸ポケットに挟み、ノートを小脇に抱えた。これを持って行けば、小説のネタに出会ってもその場で書き留められる。
もう一度乗り込む時に、ユウさんに声を掛けられた。
「お気を付けて」
俺は何も言わなかった。何も言葉が浮ばなかった。マキナさんが静かにドアを閉める。
「行先、白堊紀新世、日本」
車外の景色が霞んで、しまいには真白になった。
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