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 地下一階に着いても、案の定、僕の他には一切の人気が感じられない。それもこの階が、いや、この地下空間全てが本来は学生には解放されていないからである。学生から巻き上げた金でこんなものを作るのだからなんて罪深い、なんて僕は一切思わないが、他の生徒に知られたらそんな声が上がってもおかしくない。まあ、そもそも知られてなければ、ないのと変わらないという考えなのだろう。  僕は廊下を歩き続け突き当りにある扉の前に立つ。  その扉にはこんな看板が掛けられていた。 『私の部屋』  ある意味事実だろうが、体裁だけでも整えるという気はないのだろうか。  僕は扉をノックし、いるかもわからない人に向けて声をかける。 「夕子さん、いますか?」 「なんか用かね」  よし、賭けに勝った。 「僕ですよ」 「何だキミか、入ってもいいよ」  このやり取りに若干の疑問を感じながらドアノブを捻る。  そこには、明らかに難しい本や謎の置物等がざっくばらんにおかれていた。そして、その中に一人、女性が倒れているのが目に入る。  彼女は夕子と呼ばれている。本名は誰も知らない。外見は見目麗しく、その髪は流れる清流のように。その瞳は、輝く黒曜石のように。たおやかな立ち振る舞いで、立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花という言葉がよく似合う女性である。本来ならば。 「何徹目ですか?」 「今月に入って今日で何日目だ?」 「は? 今日で……10日目ですね」 「じゃあ、それくらいだ」  このように、興味を持ったものに対しては手を抜かない性格である。だが、髪はぼさぼさで死んだ魚のように生気のない目は是非やめていただきたい。     
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