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ひとしきり笑って、ネリーはうーんとひと伸びした。
「さぁて、と。ほどほどに挨拶してこようかな。父さまに嘆かれる前に」
「戻りますか?」
「……ってのは口実で、何か漁ってくる。お腹すいちゃった」
ネリーはペロリと小さく舌を出した。そういう仕草も彼女を幼く見せている一因かもしれない。
ふたりは揃って芝生の原を歩き出した。
「ダンスは終わったようですね」
微かに耳朶を打つ音楽に耳を澄ませる。いつの間にか曲調は軽やかなものに替わっている。
「アッシュって全く踊れないの?」
「基礎は一応、というレベルです」
「じゃあそこも仲間だね。同じくらいなら踊るの楽しいかも」
「……足を踏まないように気をつけねばなりませんね」
ネリーは自身の頭に手をやり、髪に挿していた生花を抜き取った。それからアッシュに「ねぇ」と声をかけた。
「あげる。色々教えてもらったからそのお礼」
手渡されたのは紫から黄色に掛けてのグラデーションが美しい、手の平サイズの一輪の花。
「美しい花はご婦人が身につけられた方がお似合いでは?」
「それね、結構イケルんだ。瑞々しくて味に癖がないからね、初心者向け」
「食べるんですか!?」
すっとんきょうな声を上げたアッシュを見て、ネリーはころころと楽しそうに笑った。
「花ってね、割と食べられるんだよ。味は甘酸っぱいのから苦いのまで色々あるけどさ。目でも美味しいから結構オススメ」
平然と告げるネリーは見事なほどの澄まし顔。それから未だ目を丸くしたままのアッシュを見上げ、今度はちゃんと良家の子女らしい上品な笑みを零した。
[一輪の花 完]
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