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最初の一杯
大学から駅まではバスで十五分。駅から地下鉄で三十分。そこからJRに乗り換え三十分。ようやく辿り着いた駅から自宅まで自転車で十五分。すべて足すと、通学時間だけで二時間を超える。
正直、辛い。
それが雨の日ともなると、やはり憂鬱にもなる。
「新作の、ほうじ茶パルフェラテってまだありますか」
焦げ茶色の艶のあるカウンターで、狭山昂はボソリと聞いた。育ち盛りにもほどがある二メートル近い長身に、愛想のない顔。腕にも腰にもついたガッツリ大盛り筋肉。レンジャー部隊か!といわんばかりの、厳つすぎる自分には似合わぬ飲み物だとはわかっている。だが今は勘弁してほしい。
今から雨合羽だけを友に、冷たい夜の町に自転車で繰り出すのだ。せめて糖分補給でもしないとやっていられない。
「すみません、新作は売り切れてしまって……」
申し訳なさそうに、髪をアップにした女子が答えてくれた。白い肌がまぶしい。涼しげな目元の和風美人だ。緑のエプロンも似合っている。
あまり目が合うと照れくさくて、慌てて伏せた。
「えと、それなら。……疲れてるので、なんかとにかく甘い飲み物ありますか」
何だこのふざけた注文 は。自分でもそう思った。
「とにかく甘いもの、ですか」
いやみなく、くすりと笑ってくれた。それだけでも救われた気になった。
さすが世界レベルで接客が素晴らしいと噂されているカフェは違う。恐縮しながら、カップを受けとった。
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