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僕は買ったコロッケを少女に分けてあげた。
「え、いいの?」
少女は困惑した様子だが、しっかりとコロッケをつかんでいる。
「うん、どうぞ」
「やった!」
コロッケをもらった少女は嬉しそうに笑う。
「ありがとう、わらしこれ食べてみたかったの」
食べてみたかったって、まるで食べたことないみたいな言い方だ。
「お嬢ちゃん親御さんは? はぐれちゃったのかな? 家まで送ろうか?」
こんなところで一人なわけないよな、商店街だからはぐれちゃったのかな。
そんな考えを無視して少女は僕を指さした。
「ん、僕? ああ、僕のアパートの近くに住んでるってことかな、わかった、じゃあ一緒に行こうか」
僕の家の近くってことは商店街からあまり遠くない。この子が一人でここまで来たってことも考えられるな。
僕はその子にはぐれないように言って、とりあえず僕の家に向かって歩き出した。
大丈夫だよねこれ?
誘拐とかに見えてないよね?
僕たちは商店街を出て僕のアパートの近くまで来た。
いつの間にか少女は僕の手を握っていた。
「さて、このあたりならもう家まで一人で帰れるんじゃないかな?」
僕のアパートももう見える位置だし、僕の家がわかるならさすがに自分の家も分かるだろう。
しかし少女はそのままで動かない。
「わらしの親は、あなた」
「……へっ?」
少女が突然言い出した言葉に僕の思考は数瞬、完全に止まってしまった。
「……な、なにを言ってるのかな」
戸惑った様子を隠せない。
それもそのはずだ、僕は今まで恋人なんかいたこともない残念大学生なのだ。
「あなたが見たから、わらしが生まれた」
なんと、僕は見るだけで子供ができてしまうのか。
これから一生目隠しをして生きた方がいいな。
なんてそんな冗談はさておき。
この子は不思議ちゃんの才能がある子なんだな。
「そ、そうなんだ」
「ん」
やけに堂々と、どや顔で返事してきた。
「僕もう、家に帰っていいかな」
ちょっとそっけなく言ってみると意外にも――
「いいよ」
――と軽く返してきた。
なので帰ることにしよう。
僕はすぐそこに見えるアパートに歩いていく。
階段を上る僕の後ろにも足音がもう一人分。
階段の半ばで僕は後ろを向いた。やはりあの少女だった。
「なあ、何でついてくるんだ。君の家は近くにあるんだろ……」
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