こころのつき。

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 小さな躓きはやがて吉央の心をねじまげ学校も休みがちになり、とうとうその年の秋ごろに問題が起きた。 「なっちゃん、覚えているだろう。ばあさんに折檻されたときのこと」 「折檻だなんて、随分古い言葉を使うのね」  歳に似合わない時代がかった言葉に、思わず吹き出す。 「折檻というより、虐待とか暴行と言った方がしっくりくるけどな。あの時のばあさんは、鬼畜そのものだったよ」  友達ができない吉央は、同級生たちの気を引くために物で釣ることを覚えた。最初は近所の駄菓子屋に売っている小さなお菓子。  それがだんだん渡す人数も金額もエスカレートしていき僅かな小遣いでは足りなくなり、こっそり祖母の箪笥からお金を盗み始めるまでたいして時間はかからなかった。最初は小銭で、そのうち千円ずつ抜き取っていき額は増えていく。  そのお金は祖母と母が茶道と書道を教えて稼いだもので、最後に盗んだのは五千円札で、自分は全くやったことのないカードゲームのカードを買い込んでいた。  しかし祖母は、真っ先に奈津美を疑った。  そして母は、思うように育たない吉央と家に帰らない夫のことで精神的に追い詰められていた。  子供二人を並べて問いただすと、吉央は奈津美がやったと嘘をついた。さすがに堪忍袋の緒が切れた奈津美が吉央をしかりつけると、大人二人は奈津美の言葉に一切耳を貸さず、叱責した。  そして、罪を認めない孫娘に激怒した祖母はとびかかり、まるで憑りつかれたように箒で打ち続けた。 「良子さんはなっちゃんが打たれてボロボロにされていくのをただぼんやり見ていて、吉央は吉央で大事になったのにびっくりして腰を抜かしていたよね」  本間家での異変に気が付いたひばりが飛び込んで祖母を制し、ちょうど同学年の保護者たちから相談されていた話を説明した。  吉央が、友達欲しさにお金をばらまき、善悪の判断能力のない子供たちがそれをあてにして色々ねだって買ってもらったと。  なので吉央に大金を持たせないよう説得してくれないかと言う、苦情でもあった。 「俺、なっちゃんが大好きだったから、ばあさんも、良子さんも、それと吉央も悪党だと思ったんだよ。あそこに居合わせた瞬間はね」 「・・・うん」
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