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雑踏の中でとても綺麗な、とてもとても珍しい生き物が、気配を消して静かに時を待っている。
少しだけ俯いて伏し目がちな眦はすっと筆で書いたように切れ長で、まっすぐに伸びた背中と首筋は誰とも違う清廉な空気が漂っていた。
歩き出すと同時に空手を教え込まれた彼は、大柄な両親の血を存分に受け継いで日本人離れした体格に育ち、すれ違う人々が時折ほれぼれとした視線を送っている。
大野将。
又従弟で、お隣さん。
たとえもっと人の多いところで探したとしても、きっと見つけるのに苦労はしないだろう。
彼は、幼い時からちょっと不思議な子だった。
「たっちゃん、お待たせ」
囁いてそっと肩に触れると、彫像のようだった彼の身体に力が戻り、そしてなぜか、普通の高校生の顔になる。
「なっちゃん」
この、打って変わった人懐っこい笑顔は反則だと思う。
「ふ・・・っ。くくっ」
「なっちゃん?」
ちいさな、ちいさな、たっちゃん。
負けず嫌いで、曲がったことが嫌いで、三つの時には眉間にしわが一本入っていた。
でも、やっぱりたっちゃんはたっちゃんで。
私の中の彼がそうであるように、彼の中の私はきっと、お隣のなっちゃんのままなのだ。
「ごめんごめん、たっちゃんが相変わらず可愛くて、嬉しくなっちゃった」
こっちだよ、と、腕を引いて、そのまま手を重ねる。
大きな大きな、頼もしい手のひら。
骨ばった指を三本、ぎゅっと握った。
「そんなこと言うのは、なっちゃんだけだよ」
平然とした顔のまま、奈津美の好きにさせてくれている。
夏の学生服姿で、こんなにかっこいい男の子と手をつなぐなんて、友人たちが見たら大騒ぎだろう。
役得。
だけど、この子は大切な、かけがえのない人。
「そうなのかな。でも、ひばりさんも毎日思ってるんじゃないかな」
「そういや、時々、捕縛されてほおずりの刑に遭うな」
ちらっと顔を見上げると、母親に抱きしめられて頬ずりされた時を思い出したのか、何とも言いようのない表情をしていた。
恥ずかしいような、ちょっと嬉しいような。
「ほらね」
大野家は、いつでも愛情に満ちていて、あったかい。
だから、私たちは大好きだった。
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