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駅の喧騒から離れて少し歩いたところにあるホテルへ入り、フロントと同じ階にあるカフェに落ち着くとハンバーガーを注文し、ボリュームのあるそれをお互いに思いっきりほおばった。
「うん、うまい」
「よかった。気に入ってもらえて」
七月にはなっていたがまだ夏休みシーズンに入っておらず、平日の昼間だったせいか周囲は仕事の打ち合わせに使っている大人ばかりで、体格は成人男性並みでも制服で高校生とわかる将は少し目立っていた。
「それにしても、たっちゃんが英語に堪能って知らなかった」
今回の上京の理由は、前日の日曜日に開催された英語論文の表彰式だった。
そのまま帰宅することは可能だったが、将はあえて一泊することにした。
「いや、俺は大したことないよ。本当は吉央の方が凄い」
答えつつも将は食べ続け、両手の中のバンズはあっという間に小さくなっていく。
「そうなの?知らなかった」
正方形のテーブルの角を挟んで隣に座る奈津美も負けてはおらず、二人はぽつりぽつりと会話を交わしながらも、どちらかというと食べることに集中している。
皿に盛られたポテトの山もどんどん減っていき、やがて綺麗になくなった。
「うん。最初に推薦の打診を受けたのは吉央だったんだけど、辞退したから俺になった」
「え?なんで」
少しぽってりした唇を奈津美が無意識のうちに尖らせると、それをうっかり見てしまった将はこれがいわゆるキスしたくなる唇ってやつだなという考えが頭をよぎり、近すぎる距離にそっと目をそらした。
「バイトを休みたくないから嫌だって」
昨年の夏に同居していた祖母が亡くなった途端、吉央の父親は仕事を理由にますます家に戻らなくなりやがて単身赴任。しまいには家計費を入れなくなった。
そのため母の良子と姉の奈津美が貯金を切り崩して生活の足しにしているのを知っている。それから、吉央はアルバイトに精を出すようになった。
「でも、そういうのは内申書とかプラスになるんじゃないの?」
さほど知名度の高いコンクールではないが、実績にはなる。
「うん、その通りなんだけど、成績で底上げするからいいって」
実際、吉央の成績は常にトップクラスで、将もそれに追随するために密かに努力しているところだ。
「言うな~。言ってみたい、そんなセリフ。・・・でも、よっちゃんはそうするしかなかったのね」
「・・・うん」
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