こころのつき。

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「あ、そうだ。デザート食べよう、たっちゃん。まだいけるよね?」 「もちろん」  紅茶でいったん落ち着いたところで二人はデザートの追加注文をすることに決め、メニューをのぞき込んだ。 「それで、進路はだいたい決まったの?」 「うん。方向性は」  いろどりも綺麗に盛られたデザートをフォークでゆっくり崩しながら、二人は話を続けた。 「とりあえず、薬学を学んで国家資格を取るのはどうだろうって話になってる」 「とりあえず、ねえ・・・」 「うん、とりあえず。清水さんのおかげで学費の心配はなくなったから、選択肢を少し広げてみた」  清水さん、とは、家族ぐるみで世話になっていたかかりつけ医で。 「ここにきて清水先生、まさかのサヨナラホームランだもんねえ。あれにはちょっと驚いた」  そして、これから吉央の母・良子と再婚する予定の人だ。 「俺たちもさすがに驚いた。どんな魔法がっていうのがおふくろの第一声だし」  本間の家と将の家は低い生け垣を挟んだ隣同士で、互いの祖母が姉妹だった縁でもともとは母屋と離れの関係だった。そして、吉央は事件以来ずっと将の部屋で寝起きをしている。 「二人の意思はともかく、まさか、すんなり話が通るとはね」  ひと月ほど前に、良子が夫に離婚を申し出た。  理由は清水医師に結婚を申し込まれたからだったが、それを正直に伝えたら性格のねじれた本間国男のこと、理由もなくごねるのは容易に想像がつく。  長い間、多くの女性と不倫や浮気を繰り返してきたが、世間体は貞淑な良子で保つ腹積もりらしく、長い間飼い殺しの生活を強いていた。  いや、国男一人が支配していたのではない。  姑である祖母の葉子と二人がかりで、心根の優しい嫁を、そして奈津美と吉央たちさえも押さえつけ続けていた。  風向きが一気に変わったのは、祖母が急死した瞬間からだった。  重しが一つ減ったことによる家族間のバランスの崩壊。  そしてひそかに良子を慕っていた清水が祖母の一周忌を区切りとし、動いた。  良子に迷いはもちろんあった。しかし長い間寄り添ってくれていた清水の誠意に心が動き、最終的には承諾した。
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