こころのつき。

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 その後の清水の行動は驚くほど早かった。  熟練した離婚弁護士の手配と、国男に不利な証拠集め。  そして、第三者による立会いの下の調停の場をすぐに設けた。  『先制攻撃は得意なんだ』と奈津美たちに豪語していた清水は、見事な手腕で良子、吉央、奈津美の三人を本間家から離籍させ、国男への慰謝料の支払いは一切なしという結果に落着したのがつい十日ほど前のこと。 「まさか、本家の孝義さんがここでも出てくるとはねえ・・・」  離婚調停の立会人の一人が、本間家と清水家の本家筋にあたる孝義だった。  実は、本間家の人生の節目に彼の名前が見え隠れしている。  離婚調停の前は、祖母の葉子の葬儀の時。  それ以前にも国男がらみで何かが起きると彼の名前が出る。  はるか昔で言うならば国男の就職及び所属部署の口利きは、清家の後押しがあったおかげだったとか。  清家孝義。  四十代半ばにして地元大手企業の重役で、中央の経済界にも顔が利く。 「たしか、国男おじさんが家庭教師をしていた縁とかいうよね」  東京のエスカレーター式名門校に籍を置く孝義は、小学生の頃から母親とともに東京住まいだった。そこへ、東京の大学へ進学した分家の国男が挨拶へ行き、そのまま家庭教師の座を射止めた。 「・・・きな臭いのよね。いろいろと・・・」  国男は女性関係にだらしがなく、片っ端から手を出してはトラブルを起こしていた。その最たる例が、仲人する予定だった部下の婚約者と温泉旅行へ出かけたのが露見した時だった。婚約者自身も会社関係者だったことから大きな騒ぎとなり、それの火消しをしたのもやはり孝義だったと、なぜか将の姉のつぐみが情報を仕入れてきた。 「なんだろう。うますぎる話・・・っていうか?」 「そうそう。親切すぎて、怖いよね。それに気づかないでここまで来たあの人もたいがい間抜けと言うか」 「まあ、俺ならそろそろツケを払ってもらう頃合いかなと思う」 「うん、私もそう思う。そのための布石かなーと」
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