こころのつき。

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 離婚調停の場で、孝義は清水の意見を前面肯定した。  さんざん世話になった孝義の意見に逆らえず離婚を承諾したものの、子供の頃からライバル視していた清水に妻子を攫われた屈辱には耐えられない国男は、腹いせに本間の家屋を取り壊して更地にし、売却する手続きを取った。  利便性は良く閑静な住宅地であり、そして坪数も大きなその土地はすぐに買い手が付き、法的手続きも着々と進んでいる。  結果として初盆を待たずに本間の土地は他人の手に渡り、国男は二度とこの地区に足を踏み入れることはないだろう。  そして。 「さすがの私も、清水先生がその先を読んでいたとは思わなかった・・・」 「俺も、安藤さんが家を売りに出しているの知らなかったな」  清水は、大野家を挟んで反対の隣の安藤家の土地家屋を購入していた。  不動産会社を通して売りに出たのは今年の春。  海外勤務のため長い間貸家にしていたが、経年劣化及び借り手が変わるたびのメンテナンス、そして固定資産税の支払いの面倒から解放されたいと売却に踏み切ったらしい。  敷地面積は本間家に劣るが、清水は良子が茶道教室を続けられるような間取りの家を建てる予定だと奈津美たちに告げた。  離婚届が受理されてすぐに良子は大野家に間借りし、奈津美や吉央のアルバムなどこまごまとした荷物は将たちが段ボールに詰めトランクルームに預けたので、今日明日にでも重機が入っても問題はない。  年末には新しい家完成と同時に、良子は清水との生活が始まる。  ただし、吉央は将の部屋に残る。  将たち大野家と、良子、奈津美、吉央の関係を崩さないことを念頭に置いてくれた清水には、一同、言い尽くせないほど感謝している。 「だけど正直、タイミングが良すぎて俺としては気持ち悪いんだけど」 「だよね。まあ、先生はそれを薄々わかっていて乗っかったらしいよ。お母さんには内緒だよって言われたけど」  良子は、当時存命で体が弱り始めていた曾祖母の介護を嫌って飛び出した前妻の代替として嫁に迎えられた。  認知症も始まりかけている老女の介護、口うるさい姑の手伝い、そして置き去りにされた前妻の子の養育、そして仕事を口実にめったに家にいつかない夫。  転職して地元に戻ってきた兄が妻子を伴って実家で同居を始めてしまい、居場所がなくなった良子にとって、どれほど条件が悪くても嫁ぐ以外に道はなかった。
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