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第一話 袴着
しかと覚えておくがよい。『嘉吉の鍔』の痣持つ者同士、結ばれしは呪いの因果。
哀しいかな、呪いの因果は果てなく続く。
如何なる名刀といえども、決して斬れぬ。
無駄なこと、無駄なことよ。
「さあ、彦丸。お爺に挨拶をしなさい」
二十畳ばかりある奥座敷。
集う者たちは皆、ひとりの幼子に視線を注いでいた。
彦丸はよほど緊張しているらしい。少し離れた壁際に座った父親から挨拶を促されても、正座したまま身じろぎしなかった。
「彦丸、早ようなさい」
今度は母親からも窘められる。ようやく彦丸は教えられた作法則り挨拶を始めた。両手を前に畳へと揃え、ぺったり額をこすり付けた。
「ほ、本日……彦丸は……」
昼にもかかわらず、外は墨を塗ったようにどんより薄暗い。冷たい雨が降りしきり、時折遠くではゴロゴロと雷鳴が轟く。蚊の鳴くような彦丸の声は、雨音で消し去られてしまいそうだ。
「彦丸は、袴着を無事に終えました。父上、母上の言う事を……良く聞き……」
たどたどしい決まり文句。
「文武に勤し……みたいと思います」
それでも彦丸は何とか言い終えた。
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