第三話 不意打ち

3/6
前へ
/39ページ
次へ
 慌てた娘。  持っていた手ぬぐいで零弦の着物を拭こうとするが、何故か零弦はひどく嫌がった。とにかく濡れた着物を脱がなくてはと、正兵衛にも促されて零弦は着ているものを脱いでいけば……。  正兵衛は息を呑んだ。  先日、仏間でみせられて以来、これが二回目になる。父の右肩に浮き出た、例の痣が。  梅の花が四つ。  先日零弦が書物で示してきた『嘉吉の鍔』と呼ばれる痣だった。  正兵衛は思う。 (もしや、最近になって父上がおかしい理由は……この痣を気にして?)  正兵衛も先日零弦から告げられるまで、父の右肩に痣があるとは長年全く気付かなかった。  今一度、痣の形を確かめようと正兵衛が目を凝らそうとした。  ちょうど、その時だった。  がちゃん。  何かが落ちる音が。杯が割れたのだ。  ぞくり……。  悪寒を感じる。  何やら言い知れぬ淀んだ気配が……。  道場で放つ気合の類ではない。人斬り特有の、どす黒い殺気。 (こんな処で殺気を放つ者など……)  戸惑いながら、狭い酒場の中を正兵衛は見回す。  居た。     
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加