第三話 不意打ち

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 零弦は浪人の顔を見るや否や、まるで金縛りにあったかのように身動きしなくなった。右手に握った刀をは床にカチャリと落としてしまった。  一体零弦はそれ程何に驚いたのか?   正兵衛はすぐに察した。  浪人の左頬。  大きな痣がある。  梅の花が四つ……例の丸い痣。  零弦と瓜二つの『嘉吉の鍔』の痣に違いなかった。先ほどまでは痣が影に隠れて、正兵衛も零弦も気付かなかったのだ。  襲撃が失敗した浪人は、刀を構え直した。  しかしである。  先程までの勢いは微塵も無い。カチャカチャと刀を震わせるばかり。恐怖で身が竦んでいるというよりも、まるで零弦を斬ることを躊躇している様子にも映る。浪人に向かって正兵衛は問うた。 「名乗れ! 何故、柴原一門に刃を向けてくるか!」 「く、くそっ! 『伝次郎』、許せ!」  正兵衛の言葉など聞く耳持たず。きああああっと声にならない声を上げると、再び浪人は斬りかかってくる。  狙われたのは間違いなく、零弦。  咄嗟に正兵衛が間に入る。刀を交えて剣戟を止めた。 「くっ!」  浪人は顔を歪めた。  一方の正兵衛は冷静さをかろうじて保っていた。襲われたにしても無用な殺生は避けたい。それでも、浪人の取り憑かれたような表情は尋常ではない。既にまともな人間の眼をしていなかった。  止む無く正兵衛は相手の刀を払うと、そのまま力強く斬り上げた。     
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