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が、その前に零弦の口が先に開いてしまった。
「彦丸よ。この爺の声が聞こえておるか?」
もはや、孫に対する優しい声では無い。門弟を叱咤する時と何ら変わらない。怒気が込められていた。
祖父から直接促されても、何ら反応を示さない孫に、
「どうなのじゃ? 返事をせい!」
容赦ない雷が落ちた。
ビクリ、幼い身体が震える。
渇を入れられ、そのまま泣き崩れてしまうのではあるまいか。父、正兵衛は心配でならない。
しかしである。
どうも息子の様子がおかしい。祖父の怒声を浴びた後、しばらく震え続けたままなのだ。
(彦丸?)
もしや、緊張の余り身体を壊したのではあるまいか。元々、病弱である。いよいよ助け船を差し出さねばなるまいと腰を上げた矢先だった。
ピタリ。
彦丸の背中が亀の如く静まった。
返事をしないまま、ガバリと顔を上げる。勢いよく立ち上がったのだ。
仁王立ち。
座した祖父よりも頭は高い。まるで見下ろす様な体勢で対峙してきた。両手を握りしめ、口を真一文字に。その目には怯えは微塵も無い。
彦丸は静かにポツリと呟いた。
「ああ、哀れなり」
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