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第二話 梅の花四つの痣
夜が更けた。
夜四ツ(午後十時)頃。
日中降り続いていた雨は既に止んでいた。雨音の代わりに、梟の鳴き声が寂しげに聞こえてくる。
柴原正兵衛は、父零弦の間に呼ばれていた。仏間に二人きり。すっと正兵衛は頭を下げた。
「父上、昼間の袴着につきまして、真に申し訳ありませぬ」
彦丸の失態について詫びた。だが、意外にも零弦はそれ程怒りっていない。
「うむ」
短く応えただけ。
気のせいか、昼間の奥座敷で見た時よりも零弦の顔は優れなかった。気に病む事があるのであろうか。正兵衛は、彦丸の事を真っ先に思い浮かんだ。
申し訳なさ気に、正兵衛は自分の息子について語り始めた。
「通っている寺子屋でも数習いや字明かしにばかり精を出し……子供同士で喧嘩などすれば、負けて泣いて帰ってくる始末で」
正兵衛は続ける。
「更に、まさか袴着の儀で父上に対して暴言を吐くなど。あのような子では決して・・・・・・。跡取りとして果たして大丈夫なのか、多少なりとも不安に覚えております」
江戸市中には数多くの道場がひしめき合っている。その中で生き残っていくことは並外れた努力が必要だ。
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