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無言で零弦はパラパラとめくっている。目当ての場所を指し示した。
「此処じゃ」
零弦の指先を思わず食い入る正兵衛。
書物には刀の鍔が……。
幾種類もの鍔の模様が描かれていた。どうやら、鍔の図柄だけを集めた書物らしい。
「これは押形集でございますか?」
「うむ」
零弦の返事に、正兵衛は目をパチクリとさせた。長年に渡り剣を振るってきた零弦だが、刀については特に拘りは持っていないと思っていた為だ。金持ちの商人などが由緒ある刀剣を収集している様子などを見れば、真にけしからんと憤っていた程だった。
指し示されたのは、丸形の鍔。櫃孔を囲むように、梅の花を模った小さめの透し彫が、四つある。
だが、さほど華麗に施された代物でもなさそうだ。
「だいぶ古い鍔のようです」
「応仁の乱が始まった頃の物と云われておる」
鍔の名は『嘉吉の鍔』。
造り手は不明。
室町期には、専門鍔工はほとんどいない。鍔も刀工によって造られていた。それゆえにこの時期の鍔は鑑賞美よりも実戦に役立つものが多い。
「正兵衛よ。この鍔について、何か知っておるか?」
零弦から尋ねられても正兵衛はただ首を横に振るしかない。しばし間を空けた後、零弦はこう続けた。
「この『嘉吉の鍔』には、実は呪われた逸話がある」
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