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「なっ、呪い?」
「鍔の模様と、同じ形の痣を持つ者は……」
零弦は正兵衛を見据えた。
「同様の痣ある者によって……斬り殺されるそうだ」
ジジッ。
八畳間に置かれた蝋燭の明かりが、僅かに揺らいだ。
「まさか、そのような事」
薄笑いを浮かべるのは正兵衛。対する零弦はきっと鋭いまなざしを向けてきた。
「ならば、わしが戯言を申しているとでも?」
「い、いえ。左様な事は」
思わず正兵衛は言いよどんだ。まさか夜中に鍔にまつわる呪いの話など零弦の口から聞こうとは夢にも思わなかったのだ。もし、逆に正兵衛からこの類の話をしようものなら、たちまち道場に連れて行かれ、竹刀でしこたま気合を入れられるだろう。
正兵衛が知る、父零弦はそんな男だった。零弦自身も興奮しかけた事に気付いたらしい。おもむろに咳払いをする。広げていた書物をぱたんと閉じた。
「詰まらぬことを言った。この事は忘れよ。正兵衛」
「はい」
(どうも今夜の父上は少しおかしい)
それでも年老いた父親を気遣わんと、正兵衛は言い加える事とした。
「父上、今の鍔にまつわる話ですございますが。身体に梅の花四つの痣が無ければ何も気になさることもないのでは?」
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